日本と世界におけるICT教育の比較
現在、コロナウイルスの影響で私たちの生活スタイルは一変しました。接触を避けるためリモートワークや遠隔授業など人同士が触れ合うことのない、”デジタルデバイス”を介してのコミュニケーションが主流となっています。
特に大きな影響が及んだのが教育分野ではないでしょうか。コロナ以前からも語られていた通信技術を活用した教育、ICT教育が普及してきています。日本と世界の国々ではどのようなICT教育がなされているのでしょうか?見ていきましょう。
・ICT教育とは
まず始めに、ICT教育とは(Information and Communication Technology)の略称で、デジタルテレビや教員用コンピュータ、インターネット環境下での学生用タブレット端末などを用い教育の質向上を目指す教育方法です。
ペーパーレスによる教員の負担軽減、一人一人が端末を所有することで個人の理解度や能力が明確化できる、など多くの利点が考えられます。

・日本のICT教育の現状
日本は先進国で、通信技術が発達していると思われがちですが、ICT教育に関しては他の先進国と比べて遅れ気味です。
ICT環境の充実度を測る指標として、教育用PCの普及状況があります。これは”生徒用PC1台あたりの児童生徒数”を意味しており、日本では4.24(人/台) (2019年)となっています。

・各国との比較
下のグラフは他国の教育用PC普及率を表したものです。
日本は世界の主要国と比較して学校(小・中・高)におけるコンピュータの整備状況が遅れていることが分かります。また、コンピュータ台数だけでなく電子黒板の導入率についてもイギリスでは小学校でほぼ100%, 中学校では84%であるのに対し、日本は27%程でした。ここからも日本のICT教育の遅れが分かります。

・アメリカ
アメリカはIT大国であり、教育分野においてもICT化が進んでいます。多くの学校で必要に応じて生徒に自身のスマートフォンやiPadの使用を許可する体制を取っています。また、生徒だけでなく教職員のICTスキル向上にも力を入れている点もICT発展国と言われる所以です。
・オランダ
オランダもICT教育に力を入れている国の一つです。オランダ教育文化学省のICT活用推進機関が初・中等向けにデジタル教材のプラットフォームを提供するなど、国からの積極的な支援があります。
・韓国
韓国では2010年から総額2,000億円以上かけてICT教育の普及を進めてきました。また2015年までに1人1台のタブレット端末導入を目指して積極的なICT教育の推進を行っています。国が開設した教育ポータルサイトのEDUNETでは、教員が教材や学習ツールを共有できる仕組みが整えられています。
・ロシア
ロシアの学校教育方針は詰め込み型が主流です。中高生になると日本で言うセンター試験に向けての受験勉強が本格化します。その前段階の小学校の教室ではIT化がとても進んでおり、電子黒板が基本で一人一台のタブレット端末が支給され、アプリで教科書が見られて、連絡帳も宿題もオンラインでやりとりをします。
・シンガポール
シンガポールの特徴ある取り組みのひとつとして、「フューチャースクール」 制度が挙げられます。この制度は、各学校が「ICTを活用した教育方法」について提案を行い、提案が採用された学校を「フューチャースクール」として認定 してシンガポール教育省がICTの環境整備に係る経費を支援するプログラムです。認定された学校では、1人1台のタブレット型パソコンが支給されるなど、最先端の環境の中で授業を受けることができます。
・フィンランド
フィンランドは、90年代からICT教育に取り組んでいます。その結果、インターネットの整備率は基礎学習、高校ともに100%で、ICT教育が圧倒的に進んでいます。また、どの学校にも電子黒板があり、生徒1名に対して1台のタブレット、またはPCが用意されています。

・日本の取り組み
OECD加盟国の中でもICT教育が遅れている日本ですが、昨年大流行したコロナウイルスの影響もあり、各地域でICT教育に向けた取り組みが行われています。その1つに「GIGAスクール構想」があります。
GIGAスクール構想とは、「子供達への1人1台端末と高速で大容量の通信ネットワーク を一体的に整備し、特別な支援を必要とする子供を含め、多彩な子供達の資質・能力がいっそう確実に育成できる教育ICT環境を実現する計画」のことです。(GIGA:Global and Innovation Gateway for all)
Society5.0時代を生きる子供達にとって先端技術を活用した教育は必須です。そのため国は2030年度までに義務教育段階にある児童生徒向けに学習用端末を1人1台導入し、安定的なネットワークを導入して、資金面の補助をするとしています。

・導入事例
★瀧野川女子学園 (東京都北区、私立中高一貫、生徒数379人)
2010年~ICT教育に積極的に取り組み、2018年秋に「黒板のない教室」を設 置。2019年には全普通教室で実現。
効果:授業の効率化により、授業時間の大幅な削減。本来であれば1年かかる所を半年で終える科目もあった。無駄な板書・資料配布の時間が短縮でき、グループワークに時間を割くことができる。
★東奥義塾高等学校(青森県、私学、生徒数718人)
2016年度~教員が校務目的でタブレットを使用。その後ICT環境を整え、2020 年には東北地方の高校として初めて学校情報化優良校に認定される。
効果:生徒が手元のタブレットでグラフや図形等を動かして、視覚的に理解を深めることができる。また、グループワーク主体で発表する機会が増えるため、言語化のために深い理解度へ繋げられる。

・終わりに
日本は諸外国と比べてICT教育が遅れていることが分かりました。しかし、今回のパンデミックによりICT化が助長され、国も力を入れて教育分野に介入する流れができています。
スムーズな環境整備のためには、生徒の保護者の理解が不可欠となります。タブレットやPCなどの機器導入と同時に、デジタルデバイスに慣れ親しみのない世代の方も理解が得られるよう、国民1人1人の情報技術に関する知識を高められる施策も必要ではないでしょうか。
執筆者:田島 壮太(Talentex インターン)