「日本で働いてみたいんですよね。」
国を超えた移動のハードルも下がり、もはやどこでも「好きな場所」で働く という価値観が世界中に広がりつつある今、海外の人にとって「日本」も選択肢として存在する。
日本人として、海外の人からも「好きな国」として選んでもらえるなんて事実はもちろん嬉しいことだ。
そして労働人口が減少しつつある問題に直面している今、日本で働く事を望んで海外から来日する人たちのためにも
日本国内の組織も少しずつ変化する必要が出てきている。
この変化に対応し、準備を進める企業が現在増えてきている。
Globityでは、そのような変化に対応しつつある企業から海外人材× 日本人が 互いに共存し 「多国籍チーム」として新たにアップデートされていくためのTips を共有していく。
今回は、海外人材を採用し、物流の分野で活躍するGROUND株式会社 Chief Digital Officer の小林 さんに「日本」の中で「多国籍チーム」をつくることの難しさ、そして課題解決法、魅力などについてお話を聞いた。
【GROUND 株式会社】
“Intelligent Logistics”の実現を目指して、物流領域における世界の最先端テクノロジー(LogiTech)に基づく革新的ソリューションの提供を行う。国内外の最新のテクノ、ソフトウェア×ハードウェア(AI+robot), オペレーション×エコシステム(Platform+Sharebase)を提供し、需要と供給を考慮する最適なシステムを開発している。
▶http://groundinc.co.jp/
【小林孝嗣 氏 紹介】
株式会社アイ・オー・データ機器で経理・財務・内部監査担当として経営管理全般に従事した後、米国イェール大学で修士、インディアナ大学で博士号を取得し、インディアナ大学とミシガン大学で多変量解析・機械学習の教鞭をとる。帰国後、製薬企業向けの営業・マーケティング戦略策定や顧客行動分析・広告予算配分最適化・需要予測領域での新規事業開発およびR&Dを統括する。その後独立し、スタートアップでの新規事業企画・開発から投資案件のDD対応まで、定性的・定量的アプローチを使って支援した後、2017年よりGROUND 株式会社にChief Digital Officerとして参画。
ーー そもそも、なぜ海外からの採用をはじめられたのでしょうか。
小林 : 海外から採用をすることになったポイントは2つほどありまして。
まず、我々が 日本の物流に革新を起こすスタートアップを目指しているというのは重要なポイントですよね。
ITや技術で遅れている業界に対して技術革新を起こそうとするとき、それに対応できるようなエンジニアが日本にはいないんですよね。なので、日本で探すことができないというのを前提に海外に目を向ける事になりました。
日本では物流が学問としてなかなか成立していないんですよね…。
それ故日本に物流のナレッジを持ったエンジニアがいないと、言うことになるのです。
海外だと、サプライチェーンの学部などの「物流」を専門にした学部があったりするんですよ。
なので、物流に対する素養があり、学術的にも学んでいるので、日本と比較して大学卒業後のレベルが大きく違うんですよね。
とはいえ日本の物流で働いてきた人は、いままで蓄積された経験と感がベースとしてある故に、学術的かつ体系的にはまとまっていないという難点もありまして…
日本の性善説で言えば、今までは「頑張ればなんとかなっていた」のですが、人口も減少しつつある中で対応できなくなってきているので、ITを使うという考え方に変わりつつあります。
その変遷の中で、海外でそういう素養をもつエンジニアを雇った方が効率がよいと思って。
しかも我々はスタートアップであり、コストよりもスピードがとにかく命なので外国から来るエンジニアの採用にも目をつけ始めました。
あと、第二の理由として、日本語で仕事をしなくてもよかった というのも外国籍のエンジニアの採用に目をつけた経緯のひとつです。(笑)
個人的な話になるのですが、働く相手が海外の人だとワクワクするんですよね。
というのも、日本の物流を変えようとしているので、従来の日本の物流の前提を元に話していると新しいスパイスがないゆえ、視座が足りないんですよね。
視座を求めていくと、海外人材の採用は必要不可欠だったのかと思います。
視野や視点とは違い、視座 という点においては、海外から来てもらう必要もあるんです。
そういう意味では海外人材というのは不可避でした。
ーーなるほど。そんな背景が。
海外人材 を採用するにあたって会社の一組織として、会社の各部署などとの連携に置いても困難な点などがあるとよく聞きます。こちらの困難な点について、そしてその課題に対してどう解決したのかについて教えてください。
小林: そうですね…(笑)
管理部の方とは一番議論を重ねましたね。
海外人材の採用に関しては、社内文化・言語などの問題を含め、様々な懸念の声がありました。
例をあげると、共通言語を「英語」にするという点についても二元化するのではないか?など。
日本の企業としては、日本のやり方が正義じゃないですか?
しかし僕としては、「どんな人でも働きやすい状況を作ればいいじゃないか!」という考え方に至るわけですよ。
どうありたいかから 法律を合わせるのであれば、もちろん理解できます。
法的なレベルを守ることが文化ではないので、法律よりも素晴らしいことをやれば、人は来るにもかかわらず、ここまで守るのか?
ということを社長にも共有しています。
なんとかやってきて、少しずつだけど形になってきたんですよ。
ここまでもってくるというのは、大変でしたが…。
まあ、僕が宇宙人と言われるほど個性が強かったからこそできたんじゃないかとも思いますけど…
自分の個性を活かしながら、組織改革に役立てています。(笑)
元々フリーランスだったということもあり、割と振り切って判断・行動ができるんですよね。
こういう振り切り感みたいなのが、組織改革につながっているのかもしれません。
管理部の方は、部門として「守る」ことが任務であるが故に、「攻め」の選択が来たときにいかに最適解を見つけるかっていうのがすごく大変なんですよね。
元々私自身も 管理部を経験したこともあるため、彼らの気持ちについても理解することはできます。
今までの経験含め、それぞれの部門の苦労や痛みという部分についても考えることができるというのもあり、様々な改革を行うにあたって相手に理解を示しながらコミュニケーションをとっています。そういった工夫が、互いに対立せずに 良い関係性を保ちながら「海外人材を積極的に採用する」という改革を進められているというのはあるかもしれませんね。
もちろん、社長 のビジョンなども重要なので、それらのビジョンを大事にし、問題を起こさないようにするっていうのももちろん気をつけいていますよね!(笑)
ーーちなみに、現場からの声というのは…どのような反応ですか?良い点も悪い点も含め。
小林:そちらの点についても悩ましいのは声はかなり頂きます。
頂いた声の一例を出すと
「彼らはどうして早く帰るんだ?」など。
この問題に対しては、「評価指標は8時間いることでしょうか?」
という問いを投げかけ 、彼らに求める評価指標を新しく設定して可視化することにし、この問題を解決しました。
日本人側の主張もちろん理解できます。
しかし、現状日本人だけではできないという課題が我々にはあるんですよ。
彼らの主張も十分理解できるけれども、今の課題に向き合うためには何かを理解して、諦めてもらわねばならないんです。
そこで諦めてもらうことが、この場合は「同質化」でした。
同質なのはビジョンであってやり方ではないんです。
みなさんが違うことを理解して受け入れ、尊重してあげることが文化だと思っています。
これができなければ海外から来た方は働きにくいですし、継続的な雇用はできないでしょう。
ーーなるほど。言語の問題の指摘などもあるのでしょうか?
小林: そうですね。
言語の問題に関してはベースの言語に対して、理解できる側の人が
ベースの言語を理解できない側 に対して配慮して合わせるしかないと思っています。
だからこそ、弊社の今の状態は日本語をベースなので日本語がわかる人が、英語にあわせていくしかないと考えています。時間はかかるんですけどね。
僕がつくりたいチームは、(海外人材に対して)「日本にいるってことを感じさせないチーム」なんですよ。
だから、3年くらいかけてもこの文化をつくりあげていければいいなと思っています。
また、プロダクトがどんどんできあがっていくにつれて、共通の話題ができ始めたんですよね。
そこからも(日本人エンジニアと外国人エンジニアとの)会話が生まれて、チームの雰囲気も良くなってきました。
アウトプットが見えないうちは、不安も募るということもあり、様々な衝突が起こりやすいんですよね。ここはかなり難しいところです。
さまざまな問題はありますが、最も大変だと感じた課題はチームの内部の問題ですね。
内部のコミュニケーションは何よりも大事で、定義ややり方を今も模索し続けています。
そしてその中で成功事例を作ろうとしています。
ーー「国籍問わず みんなが働きやすい」環境を作るというのはかなり難しいことですよね。
多国籍 チームを作るという上で、互いに歩み寄る姿勢というのはすべてのチームメンバーにとって重要だと思いますし…。
ちなみに 海外人材を採用 するときにはどのような点を重要視していますか?
小林:そうですね。
能力も十分重要なのですが、それよりも『チームで働けるかどうか?』という部分に注目して採用しています。
弊社のような会社では、『チームで働けるか?』の素養がかなり大事なんですよね。
私がマネジメントをする上でも、やはりチームのトップとして様々なバックグラウンドを持つが故の問い合わせなどが、チーム内からやはり出てくるんですよね。
だからこそ、その問い合わせを減らすためにも、『チームで働けるかどうか』みたいなところはかなり大事にしています。
ーー確かに。
リソースが限られている、スタートアップでは、採用において『チームで働けるかどうか』という点はかなり重要ですよね。
小林さんは、これから 海外人材 と共にどのような文化を作っていきたいと考えているんですか?
小林:現時点で様々な理由から日本の社会において決められた働き方で働けないこと が原因で雇ってもらえず、苦しむ優秀な人達が活躍できるようなプラットフォームみたいなものを、弊社の採用でひとつの『文化』として創り上げていきたいです。
あとは言語についてですが、
「英語」が共通言語だと思いこんでしまうのはなかなか危険だったりします。(笑)
というのも、英語ひとつをとっても様々な表現などがあるので…
このような例も含めて、文化的な背景もあると思いますが、 日本人が思う「グローバル・スタンダード」っていうのは実は世界的に見ると、スタンダード なものではないというのもチームの文化として浸透させていきたいです。
『グローバル』と『多国籍』というのは違うもので、私のチームなどは「多国籍チーム」だと捉えています。海外人材を採用して チームを作る上で、この違いに対しての認識は重要だと思います。
(GROUND の多国籍なエンジニアチームの様子)
ーー 『グローバル』と『多国籍』の違い。
確かに、こちらに関しては、それぞれの企業においても、 ひとりの日本人としても言語化が必要な部分ですよね。
本日はありがとうございました。
ーー 日本企業としての価値観・習慣・文化。
長年蓄積されてきたこの文化には、たくさんの発展の歴史が積み上げられている。
高度経済成長を経たその時代につくられた制度には、称賛されるものもある。
しかし、世界が繋がりを深めひとつになりつつある 現在においては、
多様性 を知りながら、世界の中の『日本』として、新しく文化を構築する時代がきているのではないだろうか?
広がりつつある世界 の中で、 新しい個性を創り上げることで
『日本企業』としての新たな魅力が生まれるのかもしれない。
そんな未来に思いを馳せながら、Globityでは海外人材 と 日本企業 のありかたについて たくさんの物語を届けていく。
(執筆・編集・写真: 馬本 ひろこ)