カザンの街の中心部にひときわ目立つビル。
世界遺産のクレムリンを見下ろすことができるIT学部のビルの存在で、この街でどれくらい科学分野が讃えられているかがわかる。
その高層階研究室を構えるのは、日本の武道をこよなく愛すエフゲニー教授。
デスクには、プーチン大統領が背負投をする姿が。
彼が醸し出す雰囲気、そして彼の研究室からでさえも彼の文武、叡智と身体を兼ね備えた人間像が浮かんでくる。
彼はロシアで生まれながらも、IT分野に強いイスラエルの大学に進学し、卒業。
その後、日本の筑波大学で学んだことが彼と日本との繋がりを深めた。
その後もカーネギーメロン大や、ロボティクスにおいてヨーロッパ最高峰の研究室があると言われているブリストル大学などで研究を重ねたエフゲニー教授は、IT・ロボティクスの分野では世界随一のレベルであることは間違いない。
研究室には、国際プロジェクトのロボットがところどころに垣間見える。
そんな彼の研究室ではどのような研究が行われているのだろうか?
エフゲニー先生に研究について聞いてみた。
ーーこちらの研究室では、主にどのような研究をしているのでしょうか?
このロボティクスの研究室では、ハードよりはソフトウェアの開発を専門にしています。
そのような関係から、ハードウェアをもつ会社とのコラボレーションが多い です。
例えば、こちらのヒューマノイドは、韓国の企業から買い、我々が開発したソフトウェアでさらに進化させたものです。
あ、あと、このロボットアームはドイツのKukaという企業のプロダクトで、この企業とも共同研究をしています。
車の製造でつかうアームのミニバージョンで、このアームの持つ様々な可能性や汎用性を開発するために研究しています。
(こちらの写真に映るエフゲニー先生の奥様 ターニャさんも一緒に研究室を案内してくれた。)
ーーそうなんですね。こちらの研究室では世界中で様々な企業と共同研究をしているようですが、その他にはどのような研究をされているのでしょうか?
そうですね。ロボティクス という分野を軸にドローンや、地走ロボットそれらのベースとなるロボットも研究もしています。
例えば日本の会社だと北陽という企業が360度センサーを提供してくださり、我々はそれらの各ロボットのサポートをしています。
その他には、リャザンというロシアの自動車メーカーと自動運転自動車のソフトウェアの開発で共同研究も現在行っています。
こちらの研究プロジェクトをリードしているのがうちの研究室に所属する女性エンジニアの修士の学生です。
ーーなんと。 学生さんが主体的にリードしながら研究が進められているんですね。
そうですね。
私は、過去に重ねてきたイスラエル・日本・アメリカ・イギリスでの国際的な経験から、インテリジェントロボティクスのマスタープログラムを設計しました。
修士課程 および 学士過程のコースでは、革新的なロボティクスの情報を世界中から手に入れ、そして世界で戦えるようなロボティクスのスペシャリストを育成するために英語で勉強するようなしくみを作っています。
そのうえ、企業を含めロシア全体でロボット工学の専門家が不足しているため、
ロボティクス分野の専門家を育成するという目的でも、ロシア企業などからも我々の修士プログラムで研究するために数名来ていたりもします。
私が目指しているのは、このコースを世界一のロボティクス修士コースにすることです。
世界中からトップレベルの学生が集まり、その後の博士課程・学士過程においても、ロボティクスの分野において世界一のレベルを保てるようにしたいんです。
以前はロシア人中心であったこの学科でしたが、近年は世界中からも学生が集まりだしています。
これからも、海外の企業との共同研究をもっと進めていったり、海外から学生を集めるしくみをつくったりしながら、よりパワーアップさせていきたいです。
エフゲニー先生の熱意そして温かさを感じることのできたカザン連邦大学訪問となった。
こちらの研究室・エフゲニー先生について
Master’s of Science in Intelligent Robotics
▷ https://kpfu.ru/eroboticsLaboratory of Intelligent Robotic Systems
▷ https://kpfu.ru/robolab.html
ソフトバンクグループが買収したボストンダイナミクス社(アメリカ)の事例からもわかるように、
国境を越えてロボティクスの開発をすることで日本という市場に固執しない
世界に広がる新しいスタンダードを生む可能性も大きい。
今回訪問したタタールスタンは自動運転試験も行われている注目都市である。
ロシアのIT都市の多くは大学をベースに街が作られていて、カザンも同じく大学を中心として様々な技術の研究が行われ、それらの研究を軸にしながら様々な産業が育っている。
そして、現在ロシアでは多くの大学がロシア国内のみにとどまらず、世界中の企業と共同研究を行っている。
このようなチャンスがあることもロシアの魅力であろう。
(写真・執筆 : 田中文章 / 編集 : 馬本 ひろこ)
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